最初に、ひとつ質問させてください。
「読図(どくず)」って、何をすることだと思いますか?
「地図を読むこと」── そう答えたくなりますよね。半分正解、半分はちょっと違います。
「ストーリーで学ぶ読図」は、Step 5 までの初級編と Step 7 までの応用編で、地図とコンパスの基本を初心者でもわかりやすいように一歩ずつ学んでいきます。最後まで読み進めると「読図ってこういうことか」という全体像が自然にわかるように、「読図徹底ガイド」から抜粋しました。
このコーナーでは、山岳会に入って3ヶ月の新人ケンタと、登山歴5年の先輩ユキの会話を覗きながら、一緒に読図を学んでいきましょう。
監修 河合 芳尚
構成・脚本 黒戸
このコーナーは画像を含めAIを使用しています。

登山前夜、ケンタの机の上
明日、ケンタは初めて山岳会の同行山行に出ます。本宮山(789m)、三河の代表的な里山。
先輩のユキに連れられて、本宮山ウォーキングセンターに集合し、表参道コースから登るらしい。
例会の帰り、ユキから一枚の紙を渡されました。茶色いぐにゃぐにゃした線と、所々に小さな記号が散らばった、
地形図というやつ。

家に帰って、机に広げるケンタ ……なにこれ。とつぶやく。



「読めなくていい」の安心感
茶色い線、青い線、四角い記号、丸い記号、点線、実線、数字。「等高線」「磁北線」「三角点」と本には書いてあるけれど、言葉が頭に入ってこない。
これでもケンタ、登山歴は1年あります。山と高原地図(昭文社)を見ながら歩いたことはある。でも国土地理院の地形図を真剣に開いたのは、これが初めて。



地形図をぱたんと閉じて、机の端に置く。お茶を一口飲んで、ふう、と息をつく。
少しだけ、地図そのものの話を
地形図を渡されて、最初から全部読めた人を、私は見たことがありません。私自身、最初は地図が読めませんでした。「この線や記号は何を意味しているのだろう」と戸惑った時期は、ちゃんとあります。
なので、プロローグの入口で言わせてください。「読めなくていい。今日のところは」。
道迷いは、技術じゃなく「面倒くさい」で起きる
なぜこんな緩い入口から始めるのか。理由になる、少し意外な事実があります。
山で道に迷う原因は、「地図が読めない」「コンパスが使えない」ではありません。何百件もの遭難事例を見ても、本当の理由はもっと地味で、もっと身に覚えのあるものでした。
- 分かっているのに、確認しなかった
- 面倒くさくて、省略してしまった
たいていは、これだけ。
雨が降ってきて、ザックの底から地図を出すのが億劫で、そのまま下って迷う。分岐で「たぶんこっちだろう」とコンパスを出さずに進んで、迷う。何度も歩いた山だから、と地図を開かないまま、知らない尾根に乗る。
つまり、技術が足りないんじゃない。確認する手間を省いただけ。
逆に言えば、地図を出して、開いて、ちょっと考える。Step 5 まで頑張ったその先でも、結局やっていることはこれです。だから今、地形図が真っ白に見えても、まったく問題ありません。
二つの合言葉
このコーナーで何度も出てくる合言葉を、先に二つ渡しておきます。両方とも私が長年かけて行き着いた、いちばんの心構えです。
ひとつめ。
読図は、地図を「読む」のではなく「考える」こと。
「読む」は、書いてある記号や数字をそのまま受け取る作業。「考える」は、地図に書いてあるものから「今、自分はどこにいるか」「この先どうなるか」を想像する作業。地図記号を全部覚える必要はありません。等高線の正式名称が言えなくても大丈夫。覚えるべきは、ここから先、何を考えるか、のほうです。
ふたつめ。
地図は、山に入る前から使う道具です。
地図はリュックの中のお守りではありません。出発前にコースを目で追って、「ここで分岐があるな」「ここで急な登りが来そうだな」と想像しておくこと。それ自体が、立派な読図です。
ケンタは机の上に置いた地形図を、もう一度開いてみました。
茶色いぐにゃぐにゃした線は、まだぐにゃぐにゃのまま。でも明日、本宮山ウォーキングセンターから、この線の上を歩いていく。今は読めないこの一枚が、明日の足の下で、少しずつ意味を持ち始めるはず。


このコーナーの全体像
「ストーリーで学ぶ読図」は プロローグから Step 5 まで。最後まで読めば、本編のゴールです。さらに知りたい人向けに、応用編 Step 6・7 を扉の向こうに用意しています。
| Step | テーマ |
|---|---|
| プロローグ(今ここ) | 山の地図って、なんだろう? |
| Step 1 | 地図が立体にみえる |
| Step 2 | 地図を山に重ねる |
| Step 3 | コンパスを相棒にする |
| Step 4 | 出発前にコースをなぞる |
| Step 5 | 体で動かして覚える |
| 応用編 Step 6 | なぜ人は道に迷うのか |
| 応用編 Step 7 | 迷ったその瞬間、何をするか |
さあ、読図の世界へ
次の章から、ユキとケンタの物語を混ぜながら、具体的に地図を使っていきましょう。

