
ちょっと予習クイズ
ユキがケンタに聞きました。







大丈夫。Step 3 を読み終わるころには、コンパス123 を自分の手でできるようになります。
しかも、樹林帯やガスで景色が見えなくても、地図とコンパスがあれば「自分が今どっちを向いているか」「どっちに進めばいいか」が分かるようになります。
それが Step 3 のゴールです。
Step 2 までで、ケンタは地図と景色を「目で」重ねられるようになりました。山頂みたいに見晴らしがいい場所なら、それで十分やっていけます。
でも山には、景色が使えない場面があります。
- 樹林帯のなか、目印が見えない
- ガスで先が真っ白
- 似たような尾根がいくつもあって、目で見ても判別できない
こういうとき、地図と景色をつなぐ二本目の橋になるのが、コンパスです。
プレートコンパスの各部
表参道を外れた樹林帯で
本宮山の下山途中、ユキの提案で、表参道から少し外れた古い踏み跡に入ってみることにした。樹林帯のなか、空が見えにくい。ケンタは少し心細くなって、ユキの背中を追う。












ユキは自分のコンパスをケンタに見せて、指差しながら名前を読み上げてくれた。



ケンタは聞いた名前をひとつずつ自分のコンパスで確認する。
登山で使うコンパスは、プレートコンパス(板状のもの)が扱いやすく、初心者にも向いています。各部の名前はこうです。
| 部位 | 役割 |
|---|---|
| 磁針(じしん) | 赤い針。北を指す |
| リング | 回せる円形の枠。中に磁針が入っている |
| ノースマーク(N) | リングの中に書かれた「N」の印 |
| 進行線 | プレート本体に引かれた、進む方向を示す矢印 |


呪文みたいに見えますが、覚えるのはこの3つだけ ── 磁針・ノースマーク(N)・進行線。
Step 3 で使う操作はすべてこれでできます。残りはおまけ。
ちなみに磁石(磁気)を帯びたものの近くだとコンパスは正しく動きません。スマホ・トランシーバー・地図ボードの鉄クリップなど、磁気源の近くで操作しないように気をつけてください。
コンパスの持ち方と基本動作
樹林帯のなかで
支道に入ってしばらく、ユキは立ち止まってケンタのコンパスを覗き込んだ。



ユキは自分のコンパスを胸の前に構える。手のひらに乗せて、進行線の矢印が自分のおへそと反対側を向くように。ケンタもそれを真似る。









ケンタはコンパスを胸の前に保ったまま、ゆっくり右に体を回す。すると ── 磁針は動かないまま、コンパス全体が右に回った。






コンパスの仕組みは、突き詰めるとこの2つだけです。
- 磁針 はいつも北を指す(=動かない目印)
- 進行線を行きたい方向に合わせる(=自分が向きたい方向にコンパスをセットする)
この2つを使って、「行きたい方向をコンパスにセットし、磁針と磁北線が重ねるように体を向ける」。これがコンパスの操作のすべてです。実際にやってみましょう。
「向きたい方向」をセットしてみる
練習として、まず「北を向く」をやってみましょう。机の上でも、立ち止まった山の中でも、同じ手順です。
- コンパスを体の正面で水平に持つ(進行線がおへそと反対側の方向を指すように)
- リングを回して、ノースマーク(N)を進行線に合わせる(目盛0度)
- 体ごと回って、磁針の赤い先端をノースマーク(N)に重ねる
磁針とノースマーク(N)がぴったり重なった瞬間、あなたは北を向いています。進行線も同じく北を指しているはず。
ここまでが、コンパスの基本的な使い方です。このあとに出てくる「コンパス123」は、これを地図と組み合わせて、「目的地への正しい方角」を出すための手順です。
コンパス123 — 進む方向を教えてもらう
樹林帯の分岐で
支道のなかで、踏み跡が二つに分かれている場所に出た。標識はない。ケンタは立ち止まる。






ユキは地図を広げて、現在地と目的地(本宮山ウォーキングセンターの駐車場)を確認した。



ユキの手元を見ながら、ケンタは聞いた。
「コンパス123」は、地図上の目的地へ向かう正しい方向を、コンパスから教えてもらうための手順です。3ステップで覚えます。
1. 現在地と目的地を、コンパスの長辺で結ぶ
地図の上にコンパスを置き、長辺(プレートの直線部分)が「現在地」と「目的地」をつなぐようにする。進行線の矢印が、目的地の方を向いていることを確認。
2. ノースマーク(N)を地図の北(磁北線)に合わせる
コンパスを地図に置いたまま、ノースマーク(N)が磁北線の北の方向にリングを回します。このときリング内の線が磁北線と平行にする。これで、コンパスに「目的地の方角」が記憶された。
3. コンパスを体の前に持って、磁針の北とノースマーク(N)を合わせる
地図からコンパスを外して、体の正面で水平に持つ。体ごとぐるっと回って、磁針の赤い先端とノースマーク(N)をぴったり重ねる。重なった瞬間、進行線の矢印が指している方向が、目的地への正しい方向。
ステップ3で「体ごと回る」のと「体の正面で進行線がおへその反対方向になるように持つ」のがポイントです。そして、コンパスを回すんじゃなく、自分が回る。
樹林帯の分岐で(続き)
ユキはコンパス123 を一通りやって、進行線の矢印が指す方向を見据えた。









二人は右の道へ進んだ。
コンパス123 を初めてやると、多くの人がコンパスの示す方向を疑います。
「いや、こっちの気がする」「景色的には逆方向じゃないか」── 地形を見て無意識に方向を修正してしまう。これは経験を積むほどやってしまう罠で、上級者でもよくあります。
豊川山岳会で過去にコンパス講習会を行ったとき、最も正確に直進できたのは、会員のお子さん(小学生)でした。大人より、よっぽど素直にコンパスを信じていますよね。
オリエンテーリングの競技では、コンパスだけを頼りに道のない場所を数百メートル直進する場面があります。私も毎回「本当にこっちか?」と不安と戦いながら走っています。それでも信じるしかない。慣れと反復で、コンパスへの信頼を育てる以外に近道はありません。
コンパスで整置する
もう一度、地図の向きを合わせたい
支道の途中、樹林帯のなかでユキが立ち止まった。












Step 2 で本宮山の山頂でやった整置は、三河湾という遠くの目印が見えていたから成立した方法でした。今いる樹林帯では、その手は使えない。



ユキは自分のコンパスを地図の上に乗せる。ケンタもそれを真似た。
1.磁針の北と地図の磁北線の北を平行に合わせる
地図の上にコンパスを乗せて、磁針の北と地図の磁北線の北が平行になるように地図を回転させる。これで整置完了です。
これだけ。
| 操作 | 目的 | 結果 |
|---|---|---|
| コンパス整置 | 地図の向きを合わせる | 地図全体が地形と一致する(これからどこに進むかは別問題) |
| コンパス123 | 進む方向を出す | 進むべき方向がコンパスで確認できる |
整置は地図の準備、コンパス123 は実行。最初は混乱しますが、繰り返しやっていると別物として手に馴染んできます。
Step 3 のまとめ
冒頭の問いに戻ります。
「コンパス123(ワン・ツー・スリー)って何のこと?」
| 用語 | こう答えられればOK |
|---|---|
| プレートコンパス | 板状のコンパス。覚えるのは磁針・ノースマーク(N)・進行線の3つだけ |
| コンパス123 | 地図上の目的地への方向を、コンパスから教えてもらう手順。3ステップ |
| ステップ① | 長辺で現在地と目的地を結ぶ |
| ステップ② | リングを回してノースマーク(N)を地図の磁北線の北に合わせる |
| ステップ③ | 体ごと回って、磁針の北とノースマーク(N)を重ねる |
| コンパス整置 | 景色が使えないとき、コンパスで地図と地形の向きを合わせる |
| 信じる練習 | 自信が持てるように反復練習をする |
景色が見えなくても、地図とコンパスがあれば進む方向と地図の向きが決められる。Step 3 のゴールはここまでです。
実際にコンパスを使えるようになるには、繰り返し練習することが欠かせません。豊川山岳会では、机の上で三角形・四角形・五角形のコースを描いて、コンパス使い方練習シートを使った練習をしています(詳しくはコンパス使い方練習シート)。最初は5歩ずつでもいい、まず「元の場所に戻れる」体験を積むのが上達の近道です。
なお、コンパスにはこの他にも 山座同定(見えている山が地図上のどれかを当てる)、エイミング・オフ(あえて目的地を外して確実な目印に当てに行く技術)、交会法(2〜3点の方角から現在地を逆算する方法)といった応用技術があります。これらは中級以上の技術なので、このコースでは扱いません。興味がある方は読図ライブラリの 山座同定・交会法・エイミング・オフ をご覧ください。
次のStepへ
| Step | テーマ |
|---|---|
| プロローグ | 山の地図って、なんだろう? |
| Step 1 | 地図が立体にみえる |
| Step 2 | 地図を山に重ねる |
| Step 3(今ここ) | コンパスを相棒にする |
| Step 4 | 出発前にコースをなぞる |
| Step 5 | 体で動かして覚える |
| 応用編 Step 6 | なぜ人は道に迷うのか |
| 応用編 Step 7 | 迷ったその瞬間、何をするか |
道具は揃いました。ここから話が一気に変わります。「人はなぜ道に迷うのか」── 三大道迷い地形と、心の罠の話です。
寄り道(読み物として)


コンパスの動きを動画で見たい
「地図読みを最強の講師に教わったぞ…!【読図実践編】」(山と渓谷ch、講師:田島利佳氏)
プランニング、整置、地図を読みながら登る、実践チェックポイント ── Step 3 で覚えたコンパスを、実際にどう使うかを実演で見られます。約10分。


もっと深く学ぶ(中級者向け)
もっと深く学びたい方への、私の教材集です。初心者は飛ばしてOK、Step 4 へ進んでください。
