1. 山岳地名と基本的な情報

目次

山の地形と名称

【山の地形と名称】
 山の主な山の名称は、「ピーク」「コル(鞍部)」「主稜」「支稜」「キレット」「岸壁」「岸壁の基部」「カール」等色々あります。「ピーク」「コル」「尾根」「沢」といっても実際の山では色々な呼び方がされています。

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【ピーク】
 ~ノ頭…………………………例:ボーコン沢ノ頭、ウドノ頭、クリヤノ頭、一ノ沢ノ頭
 ~ノ峰…………………………例:逢ノ峰、一ノ峰、三ノ峰、西ノ峰、池ノ峰
 ~嶺……………………………例:大菩薩嶺、仙涯嶺、高嶺、雁坂嶺、八紘嶺
 ~丸……………………………例:しがきの丸、美濃俣丸、檜洞丸、本社ケ丸
 ~ドッケ………………………例:芋木ノドッケ、黒ドッケ(酉谷山)、三ツドッケ(天目山)

【コル(鞍部)】
 ~峠……………………………例:ザラ峠、しらびそ峠、すずらん峠、安房峠
 ~乗越…………………………例:スゴ乗越、常念乗越、千丈沢乗越、飛騨乗越
 ~キレット……………………例:大キレット、八ツ峰キレット、(鹿島槍ヶ岳)キレット
 ~タワ(ダワ)………………例:休乢(やすみだわ)、ウノタワ、善六のタワ
 ~タル…………………………例:国師のタル、北天のタル、水のタル
 ~クビレ………………………例:鞘口ノクビレ、~巳ノ戸ノ大(みのとのおお)クビレ

【尾根】
 ~尾根…………………………例:北鎌尾根、西尾根、東尾根、横尾尾根、源次郎尾根
 ~稜……………………………例:明神主稜、白馬主稜、北穂高岳東稜、ツルネ東稜

【沢】
 ~谷……………………………例:穴毛谷、左俣谷、右俣谷、九郎右衛門谷
 ~窪(クボ)…………………例:ムジナクボ

【右俣と左俣】
 どっちの沢が右俣だっけ?と最初の頃は混乱していましたが、沢登をされる方には覚えておきたい名称です。下流から上流を見た場合、向かって右側の沢が「右俣」、左側の沢が「左俣」です。

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【右岸と左岸】
 上流から下流を見た場合、向かって右側の岸が「右岸」、左側の岸が「左岸」です。

【ゴルジュ】
 切り立った大きな岩壁にはさまれた狭い谷を「ゴルジュ」と言います。語源は、フランス語の「のど」の意味と言われています。

【二重山稜】
 2つの稜線が平行している場所を二重山稜(線状凹地、舟くぼ、雪くぼとも呼ばれます。)といいます。浸食や断層によりこのような形になるといわれています。稜線を歩いていると「あれっ」稜線が二つ平行に並んでいる。と思ったことがあると思いますが、地形図で見るとどのようになっているでしょうか?

真北と磁北

【磁北について】
 地形図には磁北線を引いてから携帯するようにしましょう。と記載してある本はたくさんあります。磁北線の引き方を書いてある本もたくさんあります。しかしながら、「真北(地形図の北のこと)」と「磁北(コンパスの指す北のこと)」の関係を理解して磁北線を引いている方は少ないように思います。少し、この関係について説明をします。

『真北』とは、地形図の北のことで北極点を指します。『磁北』とは磁石、つまりコンパスが指し示す北のことです。実は、真北と磁北はイコールではありません。それは、地形図の北が北極点にあるのに対し、磁石の北は2020年現在はカナダのクイーンエリザベス諸島付近にあるからです。まずは、磁北について説明します。

【偏角について】
 先ほども述べましたが、磁北は、北極点の方向にはないということです。そして、磁北と真北の角度の違いを『偏角』と呼びます。この偏角の角度は、日本中同じではなく、地域によって違います。数値については、国土地理院のHPや地形図の凡例に記載されています。

【北磁極の移動】
 『磁北』は、北磁極の移動に伴い、一定の方向を向いているのではなく、時間の経過とともに変化していますが知っていましたか?詳しくは、ウィキペディアを参照してください。

【1970年からの永年変化のアニメーション】
 国土地理院のHPには、1970年からの永年変化のアニメーションが掲載されています。このアニメーションをみると「偏角」の推移がなんとなく分かります。この先もどんどん「偏角」は変化するんだろうなあ?と未来も想像すると楽しくなります。

【各都市の偏角変化量】
 国土地理院のHPには、「各都市の偏角変化量」が掲載されています。この表をみますと、1070年から2010年の40年間で、偏角は0.5~1.2度西に傾きました。現在でも、偏角は西に傾き続けています。

【伊能図と偏角】 
 現在でも、偏角は西に傾き続けていますが、ここで問題。タイムマシーンに乗って、過去に戻れるとしたら偏角0度。つまり、過去には磁北と真北が一致していた時代があります。それは、いつでしょう?
それは、伊能忠敬の「大日本沿海輿地(えんかいよち)全図)」(別名「伊能図」や「伊能大図」とも言われている。)と一致していると言われています。どうりで、伊能図には磁北線が引かれていないわけだ・・・。
 なお、もう少し詳しい内容は、『伊能大図画像における真北と磁北の推定法(野上 道男)氏の資料を見てみると

 

 

(以下参照内容)
9)伊能当時の地磁気偏角の分布について
 前述したように伊能は磁北と真北は一致していると信じて導線測量を行ったので,緯線と直交する方向は彼が信じる真北であるが,実は磁北でもある。当時の磁気偏角がゼロであった地域を示す等偏角線は北海道東端部から東北地方東部を通り,東海地方に抜けている(野上,2022b)。この線から離れた地域では,伊能が作成した地図では緯線と直交する線は真の(地理的)子午線ではなく,磁気子午線である。
 大図では図幅内で偏角や真北方向は一様と見なせるが,中図のような広域図では東西南北の部分によって磁気偏角が 2 度近く異なることがある。それを無視して作られた伊能中図の画像全体をそのまま回転させても補正画像とはならない。

【伊能図】
 伊能図は、大図(縮尺 3万6000分の1)214枚、中図(縮尺21万6000分の1)8枚、小図(縮尺43万2000分の1)3枚からなっています。大体の大きさは、大図1枚がほぼ畳(たたみ)1枚程度。中・小図は横幅160cm、縦150~250cm程度の巨大図でした。大図はすべてを貼り合わせるととても大きなものになりますね。なお、伊能図の作成は17年かかったと言われています。地図に興味のある方は、伊能忠敬について調べてみるのも楽しそうですね。

【磁北線を引こう】
 それでは、実際に地形図に磁北線を引いてみましょう。まず、地形図の凡例に偏角が載っているので確認してください。(分からない場合は、国土地理院HP参照)次に地図の真北から分度器で偏角を測り1本の磁北線を引いてください。後は、この磁北線と平行に磁北線を追加記載すればよいのですが、25000分の1地形図では、4㎝ごとに引くと間隔が実際の1㎞に相当するので分かりやすいとされています。

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【オリエンテーリングの競技用地図の磁北線】
 オリエンテーリングの競技で使用する地図には磁北線が引かれていますが、この磁北線は西に傾いて引かれていません。磁北線は真北になるように修正され、真北の位置に磁北線が引かれています。

【磁北線の間隔】
 読図の雑誌には、2万5千分の1地形図に磁北線を引く場合4cm間隔で引くと、実際の距離は1kmになるので丁度よいですね。とか記載されている場合が多いと思います。
 私も4cm間隔で引くように上記で案内をしています。しかしながら、オリエンテーリングの大会では磁北線の間隔は3cm程度で引かれているものが多い(規則では間隔の幅は決まっていません。)ように感じます。
 私が実際に使用する地図や、私が開催する読図講習会での地図の磁北線の間隔も3cm程度にしています。これぐらいの間隔の方がコンパスの使用には向いていると思います。

三角点    

 三角点が、読図の現在位置確認にむちゃくちゃ役に立つかと言われると、そうでもないのですが、知っていると今度、山に行った時に「もっとよく見てみよう!」と思ってしまいます。少し説明をします。

以下、 『日本の測量史』 のHPから引用させていただきました。

【三角点の種類】
 三角点には一等から四等までの4種類あります。2015年(平成27)4月1日現在の点数はつぎのとおりです。
一等三角点      975点(うち補点約560点、現在は本点、補点の区別なし)
二等三角点    5,045点
三等三角点   31,927点
四等三角点   71,819点
合計      109,766点

 このうち一~三等三角点はほとんど明治、大正時代に設置されています。三角点の最も多い府県は北海道で全国の13パーセント、約14,000点もあります。ついで岩手県になります。最も少ないのは大阪府で約500点です。一等~三等三角点は必要にして十分な点数が既に設置されているので新設は稀で、むしろ維持困難な場所など廃止の傾向にありますが四等三角点は近年、地籍調査などのため増えています。
一等三角点の36パーセントは標高500メートル以下の低地に設置されています。[志村迪吉:一等三角点ものがたり 「山と渓谷」468 山と渓谷社 1977.9 p114]
~まで引用

 私が一番驚いたのは、「一~三等三角点はほとんど明治、大正時代」に設置されたことです。一等三角点は柱石が約90キロの重量があり、柱石の一辺は18cm、破壊や破損に備えて、柱石の直下には2枚の盤石も埋設されています。二等・三等三角点は柱石が約60キロの重量があり、柱石の一辺は15cm。四等三角点は、柱石の一辺は12cm、一等三角点と同じく破壊や破損に備えて、柱石の直下には盤石も埋設されています。
 もう一つ驚いたのは、測量精度の高さです。隣の点までの距離が25㎞~45㎞もある一等三角点、二等三角点(8㎞間隔)、三等三角点(4㎞間隔)のいずれの三角点にも10㎝の位置精度、あるいは1秒(1秒は1度の1/3600)の角観測の誤差程度だそうです。三角測量の終了は1921年なので、当時の装備でここまでの精度は驚愕します。

 話は変わり、90キロの柱石の記事を見たときに新田次郎の「強力伝」を思い出しました。この小説の主人公「小宮正作」は、当時富士山観測所の強力をしていた小宮山正がモデルと言われています。小説の中では、北アルプス白馬岳(2,933m)の山頂まで50貫(約187キロ)もの大岩(風景指示盤用)を背負い上げたことが書かれていて、描写がよかったことを思いだしました。
 三角点の設置の構造、標石や大きさ等については、 『観石万歩』 や 『国土地理院中部測量部』 が参考になります。一度ご覧ください。
 この設置の構造を見てみると、三角点の柱石が見える部分はほんの少しで、土の中に埋もれている部分は、三角点が風化・浸食等によって位置がずれないように、下部から下部万石、土、砂利、盤石、柱石と積まれており、柱石がたとえ崩壊しても土を掘り起こし、盤石の中心に柱石の中心を重ねるように設置すれば復元できるように設計されています。昔の方の知恵と思い入れには感心させられます。

【三角点測量と櫓】
 三角点測量では、観測する目標を作るため「櫓(やぐら)」の設置を行いました。この「櫓」の高さは、3m程度のものから、時には30mにもなることもあるそうです。また、1等三角測量では、三角点測量標石の真上などに櫓を築いても、相手方の櫓が遠すぎて望遠鏡でしっかり見ることはできないそうです。そこで、櫓の上に「ヘリオトロープ(回照器)」という太陽光を反射させる鏡を設置して、観測者側へ光を送ったそうです。
櫓の設置は 国土地理院HP が参考になります。

【三角点の石柱】
⑴三角点の石柱頭部を上からみると、多くは「+」の刻印があります、この刻印がレアなケースで、「×」になっているものもあります。また、この「+」が大きいものも存在するそうです。
⑵石柱の頭部は角ばっているものが多い中、丸みを帯びているものもあります。
⑶国土地理院中部測量部のHPには石柱のプロフィールとして、『北面「6ケタの標石番号」、南面「四等三角点」、東面「基本」、西面「国地院」と刻字』とありますが、中には、南側に三角点の文字がなく、違う面を向いているものもあるそうです。(三等以上で原則どおりになっているのは70パーセント程度です。[古市進:三角点の向きについて 「山」755号 日本山岳会 2008.4 p10] 。三角点標石の文字はいずれも南に向けてあり、これは苔類の侵蝕から保護するためであることを聞かされました。 [柴崎芳博:一測量官の生涯 「ケルン」4 朋文堂 1959 p39])
⑷ 一等三角点は特別な存在で、平地部などには4つの 防護石(国土地理院参照) が置かれています。
⑸ 一等三角点の100名山(ウィキペディア参照) があります。
⑹三角点の石柱はほとんどが、香川県・小豆島産です。このため、地図作りの基準となる「一等三角点」を紹介した珍しい展示コーナーが香川県土庄町の道の駅「大坂城残石記念公園」内にあるそうです。
三角点だけをとっても色々な楽しみ方がありますね。

【電子基準点】
 現在では、約1300か所で、GNSSを利用した 電子基準点(国土地理院参照) と呼ばれる三角点と同じ役割のもので、測量を行っています。(GNSS(Global Navigation Satellite System / 全球測位衛星システム)は、米国のGPS、日本の準天頂衛星(QZSS)、ロシアのGLONASS、欧州連合のGalileo等の衛星測位システムの総称です。)

 地図地図記号って理にかなっているというか、なるほどと思います。皆さんも、三角点をみたら、一辺の長さを確認し、土の中の構造について思いを巡らせるのも楽しいと思います。ちなみに、三角点の設置基準は、必ず頂上に設置しないといけないといものではなく、三角測量のためには先ほど述べた櫓の目標が遠くから見えなくてはいけません。このため、気象条件が厳しい(地形的に雲が発生しやすく観測に不向き)場所や、危険で櫓(やぐら)が設置できない場所も三角点の設置には向きません。

【今後の三角点測量】
 電子基準点が導入され、全国に約1300か所に設置されていることは先ほど述べました。この電子基準点の精度は数㎝(或いは数mm)だそうです。こうなると、昔行われていたような櫓を組んで三角測量を目測で行う必要はなくなります。しかも、短時間の観測で測量が可能になります。このため、従来の三角点に求められていた「基本測量、公共測量及び各種測量の基礎となる」という役割は、GNSS衛星と電子基準点に取って代わります。そして、高密度に三角点を設置する必要性も低下するので、国土地理院は整備済みの約10万点の三角点のうち、骨格的として定めた2400点と電子基準点1300点だけを維持管理する方針のようです。(「地図はどのようにしてつくられるのか」引用)

気温の逓減率

 標高が上がれば上がるほど温度は下がっていきますが、その下がり具合を表すのが気温逓減率です。この率は空気の湿度に依存しており、湿度が上がるほど逓減率は小さくなります。気温の逓減率は,理科の教科書では0.65℃/100mとされているそうです。また乾燥した空気では、約1℃/100m、湿った空気では0.5〜0.7℃/100mだそうです。また、季節によっても数値は変わるそうです。
 私は、いつもざっくり0.6℃/100mで計算していますが、初春や秋は急に冬の気候になることもあるので注意が必要です。

 

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この記事を書いた人

 読図コーナーを担当し「初心者からの読図,過去の遭難事例」では、ナビゲーション技術や知識、道迷いの心理、道迷い遭難事例を解説しています。ぜひ、読図コーナーのご一読を・・・。

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