5.道迷いの心理

目次

なぜ道迷いは起きるのか?

 道迷いは、色々な要因が複雑に関連しその深みに・・・。
 その要因を「登山前」「登山中」「道に迷いやすい地形」「現在地確認」「気象条件」「単独行」「グループ」「道迷いの心理」に分けて考えてみました。「やっぱり、道に迷わないためにはこの要因って大事だなぁ」と改めて認識しました。

【なぜ道迷いは起きるのか】

思い込み

 地形図を読むことが上達してくると、特徴物を探すのも楽しくなります。しかしながら、上達してくると「ここの特徴物は〇〇のはずだ!そうに違いない!」といった、思い込みをするようになります。この思い込みについて心理状態はどんな状況になっているのでしょうか?主に中級者の方に多くみられる傾向がありますが、思い込みを理解し道迷いを防ぎましょう。

【思い込みとは?】

 私も昔、思い込みから現在位置を間違って把握し、道迷いをしたことがあります。
 この思い込みの素晴らしいところは、持っていた地形図やコンパスの進行方向さえ疑うことがあります。ひょっとして、「自分は正しいけど、コンパスの示す進行方向が違っているのでは?」「このピークの向こうに〇〇があるはずだ!」・・・。というようにありえない心理状態になることもあります。
 令和3年から15年ぶりにオリエンテーリングにはまって、多くの大会に参加するようになりました。ブランクがあるので自分の方向感覚を競技のレベルまで上げるのに現在必死になっています。コンパス頼りに直進を数百メートルもするようなレッグ(ポストとポストの間の地形(進む場所)のこと)では、「本当にこっちでいいのか?」「コンパスを信じろ!」「コンパス操作の制度を上げろ!」と自問自答しながら競技をしています。ばっちり進むことができ、ポストが現れることもあれば、左右にずれてしまうこともあります。この時も「思い込みだけはやめよう」と心に誓っています。目の前に現れた地形を地図とにらめっこして、現在位置を把握し、修正しながら走っています。楽しい時間です。

道迷い遭難は確信犯?

 日本・山岳スポーツクライミング協会HP、 『第20回山岳遭難事故報告書』(青山千彰氏)の96ページに興味深い資料を見つけました。

この資料によると

Q1.どの場所で迷ったのか?
  分かる(128人) 分からない(59人)

Q2.道迷いであることに
  気づいた(157人) 気づかず(17人)

Q3.元の道まで
  引き返した(52人) 引き返せなかった(56人) そのまま行った(73人)

Q4.登山道に
  復帰した(77人) 復帰できなかった(72人)

Q5.最終的に
  自力で下山(102人) 救出された(103人)

という結果です。つまり、

①どこで迷ったか分かっていたし、
②道迷いだということも認識していた。
③しかし、そのまま行動を継続した結果、
④登山道に復帰できずに、
⑤最終的には救出された。

 という人が半数いたことになります。道迷いの心理は理解に苦しみます。何故ならば、今は山の中ではなく普段の生活の中で、何故このような行動をとってしまうのだろう?と思うからです。
 しかしながら、山の中で、藪や落ち葉で道が分かりにくかったり、暗くなってきたり、雨が降ってきたり、、、様々な状況の中では違った判断をしてしまいます。また、初期の頃には、「がんばれ!なんとかなる!」と自分を励ます自分が出現します。
 「何とかなる」は「何ともならない」。何故なら『根拠なく行動』しているからです。
 道に迷ったときは、どんな行動をとるのがよいか?事前に頭に入れてほしいと思います。
 この図のそれぞれの分岐点が『道迷いのターニングポイント』といってもよいでしょう。

【道迷い遭難は確信犯?まとめ】

道迷い事例に学ぶ道迷いのパターン 

過去の道迷いによる遭難事例のコーナーを作成していて、道迷い遭難には「道迷いのパターン」があると思いました。その原因のパターンを紹介します。

  • 行動の出発時間が遅い。
  • 事前の登山道(山域)の情報不足。
  • スマホのバッテリーが無くなり、地図アプリが使えない。
  • スマホの予備の充電器は持って行ったが、ケーブルを忘れ地図アプリが使えない。
  • パーティーがバラバラに行動した。
  • 道が不明瞭(落ち葉、藪等)になったが、何とかなると思いそのまま進んだ。
  • 天候が悪くなったため、あせり、地図も見ずに進んだ。
  • バスや電車の時間に間に合わないと、あせり、地図も見ずに進んだ。
  • 夕暮れ間近になり、あせり、地図も見ずに進んだ。
  • 昼にお酒を飲んで下山し、道が分からなくなった。
  • 途中であった登山者の話しを聞いて急にルートを変更した。
  • 現地で急に登山コースを変更したため道に迷った。
  • 赤テープを目印に進んだが道が分からなくなった。
  • 地図とコンパスをザックに入れていたが、面倒くさいので見なかった。
  • 残雪期に足跡についていったら道が分からなくなった。

 道迷いは、登りよりも下りで多く発生します。また、夕暮れ間近の時間帯も道迷いの発生率が高くなります。注意したいですね。それでは、実際の道迷いの事例について少し触れてみたいと思います。

【道迷いのパターン】
 過去の遭難事例を参考に道迷いのパターンを整理しました。この道迷いのパターンを理解すると、今後の山行で注意しなければならない点が分かります。

【道迷い遭難事例】
 実際の遭難事例については過去の道迷い遭難事例のページをご覧ください。

あれ?おかしいと思ったら(道迷いの心理)

 登山道を歩いていて「あれっ?おかしい」と感じたことはありませんか?道迷いの第一歩です。しかし、多くの場合は「多分、大丈夫?」「何とかなる」という気持ちが現れ、そのまま進むことが多いのではないでしょうか?
 道迷いの心理について少し触れてみたいと思います。

第Ⅰ 「あれっ?おかしい」と思ったら
Ⅰ-1-1 現在位置が確認できる場合
 周りの地形をよく見て、特徴物を確認し、現在位置が確認できる場合は、戻るのか進むのか判断がしやすくなります。この場合、スマホの地図アプリを利用すると心強いですね。

Ⅰ-1-2 現在位置が分からない場合
 地図を持っていない場合や地図を見たけど現在位置が分からない場合は、この時点で不安要素がとても大きく、心理的にも考え方がマイナス傾向になってしまいます。「あれっ!おかしい」と思った場合で、かつ現在位置が分からない場合は、「戻る以外に道はない!」と考えてください。

Ⅰ-2-1 分かるところまで戻るのが基本
 「冷静さ」と「地図のナビゲーション技術」があれば、現在位置の確認ができる場合が多いです。また、現在位置が分からなければ、分かるところまで戻るといった「基本に忠実」な行動をとるようにしてください。

Ⅰ-2-2 「やっぱり、さっきの道へ行こう」という気持ち
 一旦は、冷静さが自分を支配し、戻る決断をしたが、「さっきの道でも、何とかなる?」という感情が高まり、「やっぱりさっきの道を進もう!」という気持ちが湧き上がってくることがあります。この感情により、先程の「おかしい」と思った道をもう一度進んでしまい、行ったり来たりを繰り返し、体力を消耗することもあります。
この「進め」という心理と「戻れ」という心理が自分の中で戦う場合は、無駄に体力が奪われ、また、不安が増長し、最悪のシナリオへ近づくことがあります。

Ⅰ-2-3 「分かるところまで戻ろう」と決めたら、とことん戻る事が大切
 「進め」という気持ちと「戻れ」という気持ちが自分の中で戦うことがあります。一旦「戻れ」という気持ちが勝ち、戻ると判断した場合は、分かるところまで戻ることが大切です。この気持ちがぶれると、行ったり来たりを繰り返します。

Ⅰ-3-1 なぜ、そのまま進むのか?
 冷静さに欠けている場合が殆どです。例えば、
・最終のバスに遅れたらどうしよう。
・朝、体調があまり良くなく、寝不足だった。
・なんとなく。あまり、考えていない。
・赤テープの目印があるから。
 初期の心理は、気持ちの「あせり」、「不安」、「過信」などにより、進んでしまうことがあります。また、「何も考えていない」といった場合も多いようです。

Ⅰ-3-2 「何とかなるだろう」という気持ち
 「あれっ!おかしい」という気持ちを打ち消す心理が働き「何とかなる」というプラス思考が芽生えてくることがあります。この感情は、道迷い初期の場合に多く、道を間違えているかもしれないけれど、とりあえず「進もう」という行動をとってしまいます。以下の気持ちがそのシグナルです。
・下りの登山口まで、あと少し。
・この不鮮明な道は、もう少し行けばよくなるだろう。
・まだ、時間がある。
・まだ、体力がある。
・必要な装備は持っている。

 初期の心理は、目の前の「不安」を打ち消す感情や、行動を後押しする「励まし」の感情が生まれてきます。いわば、「不安」と「プラス思考」の感情が同居している状態と言えるでしょう。そして、「プラス思考」の感情が勝ち、行動を進めてしまいます。

Ⅰ-3-3 「この先に目標の道(特徴物)があるはずだ」
 「思い込み」や「願望」が心を支配している状態です。この気持ちがある場合は、心の修正が難しくなります。なぜならば、「思い込み」や「願望」は、自分の不安を打ち消すための「目標」になっているからです。

第Ⅱ 「あぁ、どうしよう」と思ったら
 あなたは、不安のまま進んだため、これ以上進むことができない滝が目の前に現れ、また、藪も濃くなり、右も左も分からず「あぁ、どうしよう」という場所まで進んでしまいました。先ほどまでは「何とかなる」と思っていましたが、これ以上進めない現実を体験して初めて行動を止めることができました。逆にいうと、ここまで行動を制御できないのが道迷いなのです。

Ⅱ-1-1 これ以上進めない(現在位置が分かる場合)
 実際には、GPSやスマホアプリ等を利用しないと現在位置を分かることは少ないですが、現在位置が分かっている場合は「来た道を戻る」ことは比較的容易だと思われます。なぜならば、冷静さを保つことができ、自分の進んできた行動を反省し、問題解決の行動をとることができるからです。
 ここで大切な心理は「冷静」です。この「冷静」がないと、滝を下ったり、急な斜面を下ったりしてしまいます。

Ⅱ-1-2 これ以上進めない(現在位置が分からない場合)
 道迷いの殆どは、現在位置が分からない場合だと思います。「何とかなる」という心理から「困った」という心理に変化します。そして、現在位置が分からないため「どうしてよいのか分からない不安や戸惑い」、「現実が受け入れられない」感情が現れます。そして、持っている装備の不備、日没、風雨等の外的要素が更に「冷静さ」から遠ざけ、誤った判断をすることになります。

(1)どうしてよいのか分からない不安や戸惑い
 一度でも道に迷ったことのある方は、「どうしてよいのか分からない」、「泣きたくなった」というような経験をされているのではないでしょうか?この段階では、まだ、解決方法が見つかっていないので、「冷静さ」を取り戻すかどうかによって、今後の運命が左右されます。私も、オリエンテーリングの大会で、この状況に陥ったことがあります。「落ち着け、落ち着け」と心の中で何度も叫び、来た道を戻るのか現在位置を推理(仮定)し、修正しながら進むのか判断が難しいため、少しパニック状態になりました。
 私の経験では、推理(仮定)し、修正しながら進んむと成功の確率は少ないと思います。なぜならば、推理(仮定)はヤマ勘であり、根拠が乏しいからです。現在位置が分からない場所からの脱出は、推理(仮定)はヤマ勘ではなく、理論で脱出しなければいけません。「道迷い」と「遭難」のこのターニングポイントが「来た道を戻る」のか「ヤマ勘で進む」のかの違いになります。

(2)現実が受け入れられない
 突然、目の前に現れた現実が受け入れられず、パニックになっている状態です。例えば、交通事故を起こした場合、これは、「夢」だとか、「何かの間違い」だとか思い、現実から逃避してしまう感情が現れるそうです。
 目の前の現実を受け入れることにより、次の行動を理論で判断できるようになります。しかし、現実を受け入れられない心理状態で次の行動に移ったとしたら「願望の中での判断」に近く、更に状況を悪化させることになります。「何故、あの時、こんな判断をしたのだろう」と後悔しないために「現実を受け入れる」ことが大切です。

(3)何かにすがる気持ち
 解決方法が見つからず、パニックになっている状態では、「何かにすがる気持ち」が芽生えます。
 例えば、目の前に赤テープが現われるとその赤テープに誘導され、あらぬ方向に進んでしまいます。理論がないのに「何かにすがる気持ち」があるため、更に道迷いの世界に引きずり込まれてしまいます。「何かにすがる気持ち」は「願望」であって、「現実」ではありません。

【ここまでのまとめ】
 「何とかなる」と思って進んだ場合「これ以上進めない」という現実があります。まずは、この「現実」を受け入れることが大切です。次に「冷静さ」を取り戻し「進め」という感情を打ち消し「戻れ」という心理状態にすることです。
「進め」という感情が少しでも残っていれば、それは「冷静さ」が欠けている心理状態といえます。「進め」という感情は、現在位置が分かっていて初めて進めるのであって、現在位置が分からない状態では、「戻る以外に道はない!」と思ってください。

【あれっおかしいと思ったら(道迷いの心理)ショートバージョン】
 遭難と道迷いのターニングポイントは何か?まとめたものです。

【あれっおかしいと思ったら(道迷いの心理)フルバージョン】
次のテキストは、2016年に作成したもので、道迷いの心理をまとめたものです。

【あれっ?おかしいと思ったら(道迷いの心理)PDF版】
 次のテキストは、2016年に作成したもので、道迷いの心理をまとめたものです。

【伝えたいこと】
 「あれっ!おかしい」と思った最初の判断で、その後の行動が決まってしまいます。まずは、「冷静」でいるかどうか、自問自答(チームで歩いているのであれば、チーム内で相談)をしてください。今来た道を戻ることに「面倒臭い」、「登り返しがえらい」、「登り返しに時間がかかる」という感情が少しでもあれば、それはもう冷静ではありません。
 そして、最初に「おかしい」と思ったときが一番、体力もあり、冷静さもあり、装備(食糧等)も充実しています。最初の正しい判断と行動が「道迷いと遭難のターニングポイント」であり、早期の判断が道迷い遭難を防止するのです。

読図ナヴィゲーションで大切なことは

 

【「体力」「冷静」「技術」について】
  読図ナヴィゲーションで一番必要な要素は、「体力」です。体力が無いと地図を見る気にもなれません。そもそも安全登山をすることはできませんよね。なので、日ごろから歩いたり、トレーニングをすることは必要不可欠だと思います。
 2番目は、「冷静」です。例えば、道に迷ったときに「あれっ?おかしい?」と思う時があります。この時が「道迷い」と「遭難」のターニングポイントだと思います。このターニングポイントで『根拠なく進む』行動をすると遭難に発展することが多いと思います。根拠を持って進むことができるかどうかは、チーム内で相談したり、単独行の場合は、自問自答をしたり、根拠を常に考え続けることが読図をするときの「冷静」だと思います。
 そして最後は、「技術」です。地図アプリに頼り過ぎてはいけません。安全な面があるかもしれませんが、そもそも地図読みを楽しんでいる私からすると面白くないと思います。等高線の曲がり具合を見て、現地と照らし合わせる。この時「国土地理院のおっちゃんの声」が聞こえてきます。「ここに沢の表現しといたけど、わかったかなぁ・・?」「ここの隠れ小ピークはわかった?」などなど・・。
地図を読むことができて、コンパスを使うことができれば、初めての山でもある程度安心して歩くことができます。

【こんな行動が道迷い遭難につながります】
①ザックの中に「地図とコンパス」を入れてあるが現在位置を確認しなかった。
②雨が降っていたので地図を出して現在位置を確認しなかった。
③長時間歩いて体力が消耗し、地図を出して確認しなかった。
 このような行動をとってしまう共通のキーワードは「面倒臭い」という言葉です。やはり、基本に忠実に行動したいですね。

 

道迷い遭難をしないために    

 道迷い遭難をしないために必要な知識や心理について触れてみました。必要な知識を持っていても、体力がなくては山は登れません。また、必要な装備を持っていても「面倒くさい」といって使わなければ意味がありません。
「公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会」では、山岳遭難防止啓発ビデオ『そうよ そうなの 遭難よ!』というビデオを作成しています。見たことありますか。笑えます。しかし、なるほどと思うこともあります。
 私も道迷いをします。しかし、頭のどこかで登山ルートのことを考えていると「あれっ?おかしい」と初期の段階で気づきます。このとき、しっかり現在位置確認を行うことが大切です。携帯の地図アプリを使ってもいいと思います。(というか、私はいつもスマホを「ぽちっ」ています。)
 雨が降っていたり、暗闇が迫っていたり、寒かったり、暑かったり・・・。現在位置確認を「面倒くさい」と思わないでください。特に単独行の方は、十分な注意が必要です。団体で歩いていても、リーダーだけが地図を見ていては、単独行と変わりありません。
 安全登山には、読図技術や登山に関する知識が必要です。皆さんも、安全で楽しい登山をされますように・・・。

道迷い遭難を考える     

 道迷いは「救助を求めた場合」と「道に迷ったけど正しいルートに戻れた場合」では、どんな違いがあるのだろう?そこには、ターニングポイントが存在し、その後の行動で明暗が分かれてしまう。ターニングポイントとは・・・?
 道迷い遭難について考えてみました。(2023.9.22作成)

 

上記の解説を下記にPDFに記載しました。

道迷い遭難の格言

【道に迷ったら沢を下ってはいけない】
 理由:沢には滝がありそれ以上下れない場合がある。また、強引に滝を下って滑落し骨折して動けなくなる場合もある。

「あれっ?おかしい」と思った次の行動で「遭難」を防ぐ
 理由:「あれっ?おかしい」と思った次の行動で「遭難」か「道迷い」か決まる。「何とかなる」という根拠のない行動は「遭難」への第一歩。「根拠なく行動する」ことは絶対いけない。

単独登山のリスクについて

 警察庁生活安全局生活安全企画課のホームページで令和5年の「山岳遭難の概況」をみてみると、単独登山者の遭難において死亡する割合は、複数登山者の約2倍となっています。これは、いざという時のリスクがいかに大きいか統計で現れています。
 複数登山ができなければ、より安全な登山計画をたて、慎重な行動をとってほしいと思います。また、いざという時にはどのような対応をしたらよいのか?道迷いしないためにはどうすればよいのか?色々と必要な知識を習得する必要があると思います。


 

万が一遭難したときに役立つ知識

 現在の遭難救助は、ヘリコプターでの救助活動が主流です。原則として日の出から日没までの間の運行となるので、日没間際に救助を求めても救助に来てくれない可能性があります。なので、救助要請の判断はなるべく早くする必要があります。

【現在位置を知らせる】
 警察に電話をかけると位置情報を警察が把握してくれるそうですが、ざっくりな位置情報しか分からないそうです。なので、確実な位置情報を求める方法をご案内します。
 電波が届く場合、スマホのGoogleマップを利用して現在位置の座標軸を求めて、家族等に連絡する方法をご紹介します。連絡する方法は、ショートメールがデータ量も少ないので有効です。

【警察に電話をかける場合】
 警察に電話をかける場合、110番します。その際、「山岳遭難です」と冒頭話してください。警察には数多くの事案があるので、その中から山岳遭難に絞り込んで状況を聞いてくれます。

 

【何を警察に伝えるのか?】
 下記の内容を伝えてください。重要な項目順に記載しました。

STEP
どこで

場所がどこなのか?
(大まかに)山頂、山名 地名、道標、方向がわかる具体的な場所
(顕著な目標)、GPS座標
(補足して)登山道上、岩壁、崖下、沢、谷、ガレ場、樹林帯
(詳しく分かれば)
  遭難者が現在地を把握していない場合
   →山の形(目の前に尖った岩がある、ハイ松が生い茂っている) 
   →太陽の当たる方向も参考になる。

STEP
誰が

 通報者本人なのか?同行者、通行人、目撃者、家族(自宅から電話したのか?)
 住所、氏名などの情報、電話番号(バッテリー残量)、着衣の色。

STEP
どうなった

 滑落して頭を打ったのか、腰を打ったのか
(※現場での対応で、首や腰の保護が必要であることを伝えないと今後、後遺症になる可能性がある。)
 ・生きている(意識あり、なし、ショック状態、負傷部位)
 ・動いていない(呼吸無など)の情報や救助した際の処置の参考情報(薬を所持、持病など)

STEP
現在の気象

※主にヘリ対応で重要事項

 晴れ、雨、曇り (例)剱岳山頂、風速約10m(分かれば、南西の風、吹き上げ、拭きおろしの風)、気温、視界約100m、付近に障害物があるか(上部に送電線があるなどヘリ救助に必要な情報は積極的に送る

STEP
いつ

直後の遭難なのか、30分前、2時間前
(※冬など雪崩埋没して30分以内の救助が必要)
現場での対応方法も検討して救助する(AED持参)

STEP
どうして

原因:(例)持病(高血圧)があり倒れる、睡眠不足、高山病。
滑落の原因(よそ見をして転落、木道でスリップして滑落、石につまづき転倒、浮石を踏み外して滑落)
(※現場はガレバで脆い、細い尾根、崖など現場の情報が救助隊員の安全対策の情報になる)

STEP
その他

現場の状況が分かる情報

・ヘリ救助が主なので雲がどこ方向から流れている、現場はガレバで足場が悪い(陸上隊員の救助参考情報)
・その他現場に関する情報(上部から頻繁に落石有) 
・その日の救助が無理ならビバークできる燃料・食料があるかなどの情報
・ヘルメットあり、ハーネスありなど

【警察に電話をかけた後大切なこと】
 身を守り、警察への連絡手段を絶たないことが最も大切です。

  • 傷病者への対応
  • 安全地帯、通話可能地点での待機
  • 不必要な通話はしない。(バッテリー消費を抑える)
  • 救助者やヘリコプターが接近してきたときの準備

【ヘリコプター救助の注意点】
 ヘリコプター救助の注意点です。知識として覚えておくと役に立ちます。

  • 運行は、原則として日の出から日没までの間
  • 飛散する可能性のあるものを撤去(例)帽子、タオル、レスキューシート、ごみ袋等
  • 台風の暴風域並みの強い強風(ダウンウォッシュ)に対する足場を確保する。
  • 救助隊員が指示・誘導するまで動かない。
  • テールローター(尾部に設置されたローター)に絶対に近づかない。

【ヘリコプターへ位置を知らせる方法】
 ヘリコプターが救助に来ても発見されなければ意味がありません。自分の位置を知らせる方法を覚えておきましょう。

  • 台地、河原などの開けた場所で待つ。(樹林地帯では、ホイスト救助ができるスペース(上空が4畳半以上開けている)の場所で待つ。
  • 周りの景色にない目立つ色の物(カッパ、ツエルト、タオルなど)を振る。
  • 両手を上げ左右に大きく振る。(樹林地帯では、付近の樹木を揺らす。
  • ヘッドライト、スマホのライト等光るもので合図をする。
  • 音が聞こえたらタオル等にライターで火をつけて煙を出す。

【ココヘリの注意点】
 ココヘリは、遭難者を見つけるための保険と割り切った方がよさそうです。遭難救助のためにかかった費用は限定的で、保証されないと思った方がよいので他に山岳保険に入っておくことをお勧めします。

(メリット)

  • 警察や消防の捜索で見つけてもらえる確率が増える。(警察もココヘリの電波を傍受できる)
  • 遭難者の居場所がわからない場合、電波を基に捜索できる。
  • 警察や消防がすぐに動けない場合、提携したヘリコプターが捜索してくれる。
  • 警察の捜索が打ち切られた場合でも、捜索の対応をしてもらえる。(期限は確認必要)
  • 生存率が上がる。

(デメリット)

  • ココヘリは一次救助ができない契約となっている。
  • 家族などの交通費などは補償されない。
  • 捜索費用のみの補償で医療費や死亡保険金は保証対象外。
  • ココヘリ単体の契約では補償が限定的なので、他の保険加入も必要。

上記の内容をパワーポイントに集約しました。資料としてお使いください。

失われつつある危機管理能力

 島田 和昭(日本山岳レスキュー協会理事長)さんが書かれた、『登山研修 VOL.38』の中で、『失われつつある危機管理能力』がとても参考になります。6つの遭難事例が書かれており、登山者に警鐘を鳴らしていると思います。
 ぜひご一読をお願いします。

『失われつつある危機管理能力』

   島田 和昭(日本山岳レスキュー協会理事長)

1.はじめに
 2022年春、奥深き残雪の山にてガイド登山中、下山時に3名の単独登山者に出会った。道迷いの果て疲労困憊に陥り動けずにいた者、よからぬ方向に見えたヘッドランプの明かりに思わず呼び戻した道迷いの者。彼らはネット動画でルートの予習をして、スマホのGPSアプリも活用していた。加えて、装備はできる限りの軽量化をはかり、「携帯できる情報」はすべて持って山に臨んだ。少なくともそのつもりだった。だがしかし・・・・・。

ここから先は、『失われつつある危機管理能力』をご覧ください。

リーダーの責任   

 山岳会の山行では、必ずリーダー、サブリーダーを決めます。登山でリーダーの役割は、非常に大切だと思います。例えば、リーダーは、グループの先頭か最後尾を歩くのが主流で、これは、グループ全体を見渡し、全員に指示を出せる位置にいることが必要だからです。

 また、歩くスピードは、一番体力のない方を中心に考え、ペースを整える必要があります。他にもリーダーが注意することは、滑りやすい下り坂での「スリップ注意」や「落石注意」危ない場所では「滑落注意」、登り始めや休憩時に行うグループ全員の体調把握、雨や風に対する防寒指示。そして、タイムスケジュールの管理等を行い、時間が予定よりもかかっている場合は、無理をせず引き返すタイミングを考えることも必要です。ですから、グループがバラバラで歩くことは、最もやってはいけない「ご法度」だと思っています。
 近年、インターネットで山行会員を募り、登山口で初めて知り合い、山行をするといったことも聞いたことがあります。この場合でも、リーダーは決めてから行動をすることが必要だと思っています。
 昔、ある方から、「登山で物事を決める判断は全員できるが、決断はリーダーがするもの。だからリーダーは知識や決断した理由を理論的に説明する必要がある。」と聞いたことがあります。気の知れた山岳会の中では、「この人が言うのであれば、そうしよう。」といった暗黙のルールがあります。だから、決断の理由も聞かないことが多いと思います。
 私は、多くの山行でリーダーをしています。例えば、2019年4月の五竜岳~鹿島槍ヶ岳の山行では、朝7時に五竜岳山頂に着いたにも関わらず、鹿島槍ヶ岳への行動を中止し、引き返す決断をしました。五竜岳山頂では、晴れていて、鹿島槍ヶ岳に突っ込んでも不思議ではない(なぜ、突っ込まないか?とグループから言われても不思議ではない。)状況でした。しかし、①昼頃から天候が急変し悪化する予報であったこと。②グループ内の個々の技術が低かったことが頭に浮かびました。(私は、このルートを春山の残雪期に歩いたことがあります。一旦、気象が悪化すると引き返すことが難しく、懸垂下降やザイルワークも悪天候の中でグループ全体ができる自信がなかったことが引き返す一番の理由だったかもしれません。)

 五竜岳の頂上で、グループの皆に、①天候の悪化、②天候悪化の中での雪山技術の有無、③いったん突っ込んだ場合の引き返す難しさを説明し引き返しました。
 結果は、下山途中でトップ歩いていた者がトラバース中に滑落し、片方のアイゼンを雪渓に落としてしまう事案が発生しました。(ザイルをつけていたのでトップは大事に至りませんでした。)私は、滑落者の安全のための支点を作り、雪渓にアイゼンを拾いに行き、アイゼンを確保したため下山は無事でした。この事案からグループの中では、雪山技術を学ぶ姿勢が生まれたように思います。
 下山後、五竜スキー場から五竜岳を見上げると、すでに、山は雲に覆われて雪が降っていました。鹿島槍ヶ岳に突っ込まないでよかったとつくづく思い、ホッとしました。

 このホームページでは、国立登山研修所の「PDCAサイクルで安全登山」のビデオを紹介しています。この中で、北村さんが一番伝えたかったことは、

「引き返す勇気が必要ではなく、引き返す計画を実行することが必要!」

 と話されています。リーダーは、この言葉を常に心がけておきたいものですし、そもそも登山計画は重要で、十分に計画を練る必要があると思っています。リーダーには、責任があり、行動を左右し決断する権利があります。「安全登山」をするために、リーダーは常に必要な技術・体力を身につける努力が必要だと思います。
 豊川山岳会では、

「困難は克服し、危険は回避する」

 という先輩からの言葉があります。私は「しっかりトレーニングをした上で登山に行く(困難は克服)。川の増水、雷、台風、雪崩等、危険な場合は避ける(危険は回避)」と肝に銘じています。リーダーの座右の銘としては、ピッタリだと思っています。皆さんも安全登山を心掛け山を楽しみましょう。 

リーダーだけに責任はあるのか?

 先述したリーダーの責任は大きいものの、リーダーだけに責任はあるのでしょうか?豊川山岳会は総括する肩書を「会長」ではなく、「代表」としています。この理由は、「あくまでも豊川山岳会を代表するだけでなので、事故が起きた場合、あくまで責任は個人にある。」という会員相互の理解があると先輩から聞きました。なるほどと思いました。
 リーダー以外の一緒に行った者でも、個人の責任が必ず存在していると思います。個人一人一人が山の知識を持つように努力し、事前に登山計画を作成し、慎重な行動をとらなければならないと思います。

 

このコーナーの資料は、オープンにしています。 コピー等自由にしていただいて結構ですが、著作権は放棄していません。

この記事を書いた人

 読図コーナーを担当し「初心者からの読図,過去の遭難事例」では、ナビゲーション技術や知識、道迷いの心理、道迷い遭難事例を解説しています。ぜひ、読図コーナーのご一読を・・・。

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