【渡名喜島・南岸岩壁】(比嘉)
【2023年1月3日~1月5日】
【メンバー】比嘉正岳、比嘉正之(親父)
【概要】
15年ほど前から親父が惚れこんだ巨大な未踏壁があった。その未踏壁を、親子で登攀し、ナチュプロのみで5.10Cのルートを開拓した記録。
【登攀エリアと渡名喜島の紹介】
沖縄県島尻郡に位置する、渡名喜村。人口は400人ほどで、村の面積は日本で2番目に小さい。
【1日目の記録】
沖縄県那覇市にある港からフェリーで3時間かけて渡名喜島に向かう。小さな島なのでフェリーのみ運行している。
下記の2枚の写真は船からの渡名喜島の景色。
渡名喜島の港についてから、すぐに目標の岩壁に向かう。
車だと渡名喜港から10分ほどで岩場の駐車場に着く。そこから軽く木道の遊歩道を歩き、目標の岩壁に向けて藪漕ぎが始まる。
1日目なので、クライミングエリアを見渡せるピークに登り偵察を行う。途中から雨が降り始め、体が冷えるが、猛烈な藪漕ぎにはちょうどいい。
遊歩道から、先頭は藪漕ぎに慣れた親父が行く。とても64歳とは思えないスピードで僕は置いてけぼりに。正月太りも遅れの原因のひとつだ。母の飯が食べたくなってくる、、
1時間ほど藪漕ぎをしてピークに到着。テンション高めな親父と、左下に見えるのが島尻崎。
ピークに着いたところで、雨風が強くなったので撤退する。
傾斜がキツい中での藪漕ぎ下山はかなり怖い。
比嘉は道中、2メートル滑落し、フカフカの藪にダイブ。
危なかった、、、
遊歩道に合流したところで、時刻は14時。体はずぶ濡れで寒い。やることがないので、海岸に降りてまた偵察を行う。
海岸までのアプローチは、釣り人用のロープがフィックスしてあるが、滑って歩きづらい。
海岸には、数え切れないほどのボルダーがあり、異様な光景だった。
雨もかなり強くなり、時間も遅くなってきたので、1日目はこれにて終了。
【2日目の記録】
海岸からのアプローチは、道が険しくてキツいので、懸垂下降でのアプローチを行う。
午前8時に遊歩道を出て藪漕ぎを開始。
2時間ほど藪漕ぎをして、懸垂下降ができそうなポイントに到着する。
懸垂下降開始。
途中、浮石が多いので開拓クライミングの醍醐味、お掃除クライミングだ。
ダブルロープを2本束ねて40メートルほど懸垂下降すると、ガジュマルの根っこが岩に張り付いているポイントに着く。 その根っこにスリングを巻いて支点構築し、ピッチをきる。
ガジュマルの木は細く、グラグラに動く支点だ。不安だが、2ピッチ目の懸垂下降する。
2匹目の懸垂下降は高度感があり面白かった。
「アルパインやってる感」を感じる。
2ピッチ目の懸垂下降は50メートルロープいっぱい出たところでピッチを切る。ちょうどいい場所に直径10センチほどの木が生えている。そこで3ピッチ目の支点を作る。
3ピッチ目の懸垂下降は、スラブからスタートなので降りやすい。海面からの距離も近くなるので海風を感じる。アルミ製のギヤ類が悲鳴をあげている。
4ピッチ目はロープ無し。歩きで降りられる。ただ、ロープをフィックスしておいた方がよかったと後から後悔した。ボルダーサイズの岩がゴロゴロしたエリアを歩かないといけない。
海岸に着くと、真っ先に海に触れて海抜0メートルを感じる。振り返ると大岩壁が僕に覆い被さってくる。かなりのスケール感だ。
人類が歩いたことのない海岸かもしれないと思い、30分ほど海岸を散策した。海岸にはボルダーサイズの岩がゴロゴロと転がっており、見た事もないような地形が広がっていた。漂着物もかなりあり直径2メートル程の浮きは見応えがあった。
海岸の散策が終わって、時刻は13時。
登攀を開始する。
1ピッチ目(グレード5.9)
1ピッチ目は、比較的簡単なので自己ビレイシステムで登る。
2ピッチ目(グレード5.10C)
2ピッチ目は、このルートの核心でハングしている。僕はリードでいける自信がないので親父にリードしてもらう。
父がリードするが、ロープが20メートル出た核心手前でフォール。掴んだ浮石が外れた事により体勢を崩して滑落したようだ。(ナッツが効いていたので無傷)
墜落距離が長かったので、僕はしばらく動揺したが、父は冷静で核心もスルスルと登っていく。
ロープが50メートルいっぱい出たところでピッチを切る。「ビレイ解除」というコールが聞こえた時はかなり安堵した。
続いて僕がフォローで登る。親父が滑落したポイントは浮石が多く、かなりスリリング。核心はハングしており、ザックの重みで体が岩から剥がされる。後半はクラックとフェースのミックスルートで、高度感もあって面白い。岩が脆くかなり危ないピッチだった。
3ピッチ目(グレード5.10A)
3ピッチ目は僕がリードする。余裕に登れるだろうと思ったが、ハング超えで高度感がありすぎて落ち着いて登れない。支点は取りやすい地形だったが、浮石が多く「この浮石よ、頼むから動かないでくれ」と、ホールドとして使う事も多くあった。なんとか、トップアウトしセカンドのビレイをする。
太陽が沈み、父が最終ピッチを登り終える頃には18時。
あたりは真っ暗だった。
早朝から行動を開始し、落石の恐怖感やクライミングの緊張感によりヘトヘトの2人は、「生還した」という感覚に浸っていた。
2日目終了
【3日目の記録】
前日の疲れがだいぶ残っているが、7時に行動開始。沖縄の日の出は遅いので、比較的遅い時間に起きられる。
この日の目標は、昨日とは違うエリアの崖から懸垂下降し、登攀をすることだ。
アプローチの藪漕ぎも3日目だからか、だいぶペースが上がるが、ハイマツにトゲを生やしたような植物がカラダ中に刺さり、レインウェアはズタボロに。おまけに、ナイフのように鋭い石灰岩が藪を踏んだ先に待っている。まるで罠だ。
慎重に藪漕ぎをしていたが、靴底に鋭い石灰岩が貫通し足に激痛が走る。ワークマンの安全靴はアプローチシューズに向いていると思っていたが、流石に負けてしまった。
藪漕ぎが、思うように進まず2人とも叫びながら藪を漕ぐ。
「これが、藪漕ぎレベルMAXってやつか」
なんとか、懸垂下降ポイントに到着するが、時刻は11時。登攀を始めるには、グレーな時間帯だ。
優しそうなラインなら登れるかもしれないと思ったが、昨日より悪そうなラインばかり。
父も、圧巻の景色を見てお腹いっぱいに見えたので、撤退する。
帰路の藪漕ぎも、かなりハードだがなんとかスタート地点に到着する。
「生還したんだ。これ以上に登攀する事は無いんだ」と思うと、なんだか急に普通の人に戻った気がする。
親父とこの未踏壁に登れて本当によかった。
今度はどんな冒険を一緒にしようか?