硫黄尾根

★山行名 【硫黄尾根】
★年月日 【2002年5月2日~5月5日】
★メンバー【宮尾、白井】

5/1
夜出発前に福地君に新穂高まで乗り入れしてもらう車を預け、ビーコンを受け取る。
22:53国府駅、23:56名古屋発「急行ちくま」で信州へ向かう。

5/2 快晴
4:15 松本着 5:05信濃大町着。北の高気圧に覆われ、冷え込んですっきり
した青空。後立山の稜線、鹿島槍や針の木岳が見えるが、雪解けが早くかなり岩が剥
き出しになっている。例年なら1~2週間後の山の装いに感じる。作戦通り大町駅
で、一緒にタクシーで高瀬ダムまで乗り入れできる2人組が見つかった。この二人
組、名古屋ACCの林さん(もう一人は不明)で、海外の山に興味があるらしくパタゴ
ニアやペルーの山によく出かけているそうである。昔、東京わらじの仲間に所属して
いたらしく、我々が豊川山岳会と言うと、鷲見さんの名前とその頃の話をいきなりし
始め、山の世界は狭いもんだなー、とつくづく思う。白井君も神奈川にいたので東京
方面の岳人の話題ではずんでいる。
ニュージーランドやどこどこがいいとか言っているうちに、タクシー運ちゃんのダム
の解説があり到着。
ハイキング道のような素晴らしい木立の中、快適に歩を進める。湯俣に近づくと硫黄
の臭いがだんだん濃くなる。本日の硫黄尾根は4パーティー入山。取り付きは、水俣
川を渡って15分ぐらいところのケルンが目印だが見落としてしまい、さらに10分
程行くとかなりの笹薮に出くわす(7~8年前の春の北鎌アプローチ時はこんな笹薮
はなかったし、ルートはかなり荒れている。きっと温暖化のせいだろう)。おかしい
こんなはずはないということで逆戻りし、白井君が見に行くとすぐのところにケルン
があった。
ともかく4パーティー中、最後尾で尾根に取り付く。汗タラタラでひたすら登ると3
0分で尾根上に。ルートは間違いない。寝不足のせいか、やたらのどが渇く。標高1
600m付近で休憩時には全く雪がなく、どこまで雪がないのか?と話になったがす
ぐに現れ安心した。
2000m付近、ここまで来ると左手に独標から槍ヶ岳へつながる北鎌尾根が直線状
に重なって姿を現わす。はるか遠方に雪のない夏道の燕岳稜線が見え、大天井岳が
ド~ンと大きい。
硫黄岳ジャンダルム群(全5峰の前衛峰)の手前、2100m付近到着。計画ではこ
こに泊まるつもりだったが、まだ15時にもなっていない。前方には赤茶けた岩峰がつ
ながっている。全体的なルートや小次郎のコルを目視で確認する。
白井君は、「小次郎のコルまで2時間もあればいけるでしょう」と、あっさり言われた
がともかく荷物が重い。20kgぐらいだが登攀には不安を感じる重量である。ガソ
リンは1L,酒なし,共同食は生ものなしと、軽量化にかなり神経を使ったつもりだ
が...まだまだである。天気は良すぎて、雪渓はきんきんギラギラでのどが渇く。
ついに水筒の水がやばくなってきたので雪を補充する。
2峰で35~40mの懸垂下降があり、我々はシングルロープ(折り返し25m)な
ので、先行の大阪YMCAパーティーのダブルロープを使わせてもらった。実はこのあと
2人組とは、さしずめ「ウサギと亀」のレースならぬ硫黄尾根上で抜きつ抜かれつの
日々を迎えることになる。大阪YMCA「今日は小次郎のコルまでですか?行けたらいい
ですね。先に行ってください。」。後から来た我々は、ロープを使わせてもらった上
に先に行ってしまった。ボロい岩場を慎重に処理し、1時間半がんばり5峰に到着。あ
とは、アイゼンをつけて土手状の急斜面と雪面を一気に100m下ると小次郎のコ
ル。そこそこの広さの快適なテントサイトだった。白井君の予想通り、17時前に着
いてしまった。
しかし、待てど暮らせど、後続の大阪YMCAや滋賀パーティー(3人)はやってこな
かった。ここまで届いたのは我々ともう1パーティーのみ。
MSRで水作りになかなか時間がかかるが、白井君持参の酒も飲まず、ホットポカリや
スープで水分を流し込む。白井君は、「いいちこ」でほろ酔い加減、初日はしっかり行
動でき満足な2人だった。夕食は、重いレトルトを処理しようということで「神戸すき
焼き丼」を食ってしまった。食後、夜行列車で睡眠3時間の2人は爆睡してしまった。
<タイム>
高瀬ダム7:15着7:30発,湯俣小屋対岸10:30着,硫黄尾根取り付き11
:20,標高2031mピーク13:40,硫黄岳ジャンダルム手前14:45,5
峰ピーク16:10着16:30発,小次郎のコル16:55着

5/3 晴
4時半起。薄明るい中、隣でテントを撤収する音がする。なんと早い奴らだ。そう言
えば3時頃音がしていたような気がする。お茶漬けとコーヒーなどでゆっくりの朝を
送っていると、6時に大阪YMCAのパーティーがやってきた。豊川「昨日はどこまでだっ
たのですか?」、大阪「我々は、途中の張れるところまででしたよ。よくここまできま
したね」とか言って、あっさり抜き去って行ってしまった。
40分後テントの撤収が終わる頃、滋賀のパーティーがやってきて休んでいたので、歯
磨きの予定を中止してさっさと出かけることにする。
硫黄岳までは標高差500mでほとんど雪の斜面、たまにブッシュ、岩で汗をかいて
ひたすら登る。途中で、大阪YMCAの2人を追い越し、頂上でまた合流。
下りは、ブッシュ、雪面の繰り返しなのだが、ブッシュは踏みつけて通過するので治
療中の左膝と昨日からおかしい右膝を再起不能状態にされかねない。勢いをつけずに
踏み込む、それが安全に行くコツだった。なんとかヘボをせず、やがてブッシュ帯は
終わった。
2511mピークに到着、赤岳ジャンダルム群(全8峰)が姿を現わした。硫黄岳の
ときより明らかにピーク差が大きく距離も長い。岩は同じく赤茶けたボロそうな積み
木状である。右へ目を移すと硫黄の臭いとともに白い硫黄沢がある。北海道・十勝岳
から富良野側にある噴火エリアを想い出した。エリアの大きさと感じがよく似てい
る。
2511mからは、通称「雷鳥ルンゼ」へ、いやらしいボロ岩と崩れそうな斜面を湯俣
川側にルートをとってクライムダウンと懸垂2回で一気に下る。下っている途中、雷
鳥のギィーギィーいう鳴き声が聞こえたが、立派な体型のオス1羽が雪渓上をうろう
ろしていた。
赤岳ジャンダルム群、1~4峰は、湯俣川側の雪面を巻いた。5峰を直登し、懸垂下
降2回。6峰は途中まで登り、湯俣川側を巻いた。7峰は、千丈沢側を完全に巻い
た。
1~4峰と7峰のルートはよくわからないが、直登すれば懸垂支点はあるようであ
る。
8峰は途中まで登り、窓から25mの懸垂で中山沢のコルに降り立つ。計画ではここ
が幕営地であるが、まだ15時前。本日終了には早い。16時まで動こうということ
で赤岳1峰へ登り始める。途中、岩壁から水がジャブジャブ流れており、急速に雪解
けが進行していることがわかる。この登攀も2週間後であれば雪が利用出来ずルート
選択も岩やブッシュ通しでかなり苦しくなるような気がする。今後温暖化でGWの登山
は過去の記録のようにはいかなくなる恐れもないとは言えない。コルから45分で頂
上。ここでテントを張るかどうかだったが、外張りを引っ張るしっかりした岩や雪面
がなかったため下ることにする。これが、深夜から翌日の強風と雨でやられることを
予想したものではなかったが、結果オーライだった。ともかく風が吹き抜ける稜線で
あるから、これくらいは予想しておいて当然だろう。
赤岳1・2峰間のコルに到着。テントを張る。
今日も順調に行動が進んだことから、私のみ今回禁酒のはずがいつの間にか酒宴とな
り会話も弾んだ。豊川、渓稜会、蒲郡、そして東三河・鉄の女三人衆(渓稜会・石原
君命名)と話題がつきない。今後、各会の面々の運命はどうなって行くのか楽しみで
ある。夕食は、重いレトルトの一味・京都親子丼だった。夜中、12時半に目が開
く。風が強くなり雨が降っていた。靴が心配で白井君に聞いたら中に入れておいてく
れたとのことで安心した。テントがあまりにうるさいので、イビキ避けの耳栓をして
寝た。
<タイム>
小次郎のコル6:40発,硫黄岳(2553m)8:30,雷鳥ルンゼのコル10:
40,赤岳ジャンダルム手前11:15,中山沢のコル14:50,赤岳1・2峰間
のコル16:15着

5/4 風雨
4時起。ラジオによると、前線が本州を南下して通過中で明日朝まで回復しないとの
こと。あきらめて横になり、この記録を書く。7時半、シュラフがあまりに冷たいの
で起きた。コッファーにお湯を沸かしてティータイムの後、沸騰した湯の入ったコッ
ファーをアイロン代わりにエアーマット、シュラフカバー、シュラフに押し付け順番
に乾かす。
シュラフカバーは、初日までは必要ないかと思っていたが、やはりこのような外から
濡れるような時は必需品である。実は、軽量化をするときこれを置いて行くかかなり
迷ったのだが日本の春山のように雨が多いとそうもいかない。
羽毛のシュラフは、特に濡れに弱い。以前に春日井の佐原晴人君が言っていたし、今
回白井君に聞いても湿度の高い日本海側、例えば冬の剣岳をやる連中は多少重くてか
さばっても化繊のシュラフを使うそうである。
てんぷらそばを食べてラジオを聞いてだべっていると11時半に1匹目の亀がやって
きた。女性1人を含む滋賀のパーティー、今朝から6時間かけて到着とのこと。なん
と、この風雨の中5時半から動いているらしい、ご苦労なことだ。一言しゃべって通
過。12時半、2匹目の亀がやってきた。大阪YMCA、ここまで今朝から5時間かかっ
たとのこと。外で無線交信をしているようだが西鎌尾根としかつながらないと言って
いる。槍平にも仲間がいるらしく我々のパターンと同じだ。我々の無線機はおかし
い。どこのチャネルとも入信せず、暇つぶしにどこかと交信したいのだが...。重
いくせに全く役立たずで、デブの人間より立ちが悪い。しかも捨てて行くわけにも行
かない(デブも一緒か)。
大阪YMCAは行ってしまった。ここで、また亀に抜き返されたことになる。13時
頃まで、たまに降りしきる強風で倒れそうなテントを押しながらこんな状態で暇をつ
ぶす。アイロンも終わり、あまりに暇なので明日の予定を立ててみた。
赤岳1-2峰間コル(2:30~3:00)西鎌稜線出合(1:30~2:00)千
丈沢乗越(1:00)槍平(3時間半)新穂高温泉。5時発で、14時半に着くだろ
う。
13時、お茶とお菓子を食べて、いよいよ何もすることがなくなったのでまたシュラ
フに入って寝ることにした。今日のウサギは完全に休止状態である。
1日中降り続いている。16時、起きるとそこかしこで水が溜まっている。外張りの
噴出しのところに2Lのポリタン一杯ぐらいの水が溜まっているの白井君が発見し、
夕食用の作る水が省略できた。
朝から同じ状態だが、テント内の端部は水の溜まった堀の様になっておりエアーマッ
トのところのみ高くなっている。白井君の全体用銀マットと水筒やごみ袋、ザイル、
ザックなどで周りを浮かして何とか中心部の浸水を食い止めている。このナイロン製
の折りたたむことの出来る水筒と食事のごみの入った袋が意外なところで役立ってい
る。
夕食は、昨日と同じく親子丼。ただし、ジフィーズで安く(1袋¥130、二人で3
袋使用)、軽くおいしい。東京のICI石井スポーツで買ったとのこと。多分、名古
屋や大阪のIBSでも売っているだろうが、豊橋モンタニアにはないだろう。モンタ
ニアをけなすのが好きな土橋君にこういう話をすると大笑いまちがいなし。やはり、
レトルトはいかんな-と言いつつ、あっという間に胃袋に流し込む。締めは、白井君
持参の赤だしの味噌汁。市販のパックなのでマイルドな赤味噌である。これなら関西
人でもいける。
初日の寝不足から一転して、寝過ぎの状態になり、20時に横になるが眠れない。し
かも、一晩中風雨でテントのポールがしなり顔面にしずくが飛んできた。シュラフカ
バーも体ごと風圧で押し付けられビタビタになっていた。何発もこういう状態でやら
れながらも、昨日昼に出くわしたあの雷鳥たちはこういう時どうしているのだろうと
思った。おそらく秘密の隠れ家があるに違いないとか、このコルが全層雪崩で丸ごと
流されたらもう終わりだなぁとか(白井君も朝同じことを言っていた)考えてひたす
ら時間が過ぎるのを待った。2時に外張りを固定していたピッケルがついに風で外れ
たので取り付けに出たとき、エアーマットも何もかもがビタビタに濡れているのを発
見し失望した。道理でシュラフの中が冷たいはず(ガックリ!!)。シュラフカバー
の周りがすべて湿っているので、シュラフの中の体から発する蒸気が外に放散されな
いのだ。それでも3時まで我慢し寝ていた。ともかく、ほとんど眠れない一夜だっ
た。

5/5 霧雨、強風、のち快晴
3時、濡れて役立たずのシュラフをゴミ袋に詰めて食事の支度にかかる。こんなとこ
一刻も早く脱出しなければいけない。
お茶漬けと味噌汁を食べて、さっさと支度する。強風の中テントを飛ばされないよう
畳み
5時スタート。風雨の中、荷物は減るどころか水を含んでかえって重くなっている。
赤岳P3~4は稜線も細く慎重に通過した。
赤岳らしきところが終わるとあっという間に西鎌尾根との出合いに到着。予想通り、
きっかり2時間半だった。雨は止んだが、今度は飛騨側からの強風と重荷で千鳥足に
なりながら夏道を進む。雪渓も使って千丈沢乗越に向かうとガスが時々晴れて、我々
の登ってきた硫黄尾根や北鎌尾根が見えてきた。9時、ガスが急に取れて、快晴に
なった。天にそびえる槍ヶ岳と北鎌尾根が素晴らしい。大喰岳西尾根を登っている槍
平パーティーの恵ちゃんと携帯でつながった。あと頂上まで2時間のところにいる
が、今日下山するかどうかは槍平に戻って考えるとのこと。
9時50分、千丈沢乗越着。すでに大阪YMCAの2人は下ってしまったらしい。
千丈沢乗越から駆け下りるように槍平のテントに向かった。テントの中を見てみる。
酒が全部なくなって、テントの端がへこんでいる。昨日の我々と同じく大変だったろ
うなぁ。
しばらく、濡れものを乾かした後、信じられないほど回復した天気でギラギラする雪
面を踏んで滝谷、白出出合と向かう。
だんだん荷物の食い込む肩も痛くなり山行のおわりを感じた。15時30分、新穂高
温泉到着。やはり、ウサギは亀に追いつくことはなかった。

<タイム>
赤岳1・2峰間のコル5:05発,西鎌尾根出合7:30,千丈沢乗越9:50着1
0:05発,槍平11:15着11:50発,新穂高温泉15:30

▼軽量化について:レトルトは調理水を節約できるが良くない。常々改良されている
ジフィーズのチェックをすべきだと思った。MSRのガソリン、水作りと朝食用だけ
なら1Lで3日は充分いける。MSRの場合、ブタンガスも安全上必要になるので、
燃料が余分な量にならないか注意が必要。
▼装備:無線機は正常に機能しているのか??どのチャネルも全然入感せず、地形的
なものなのか不明。平地でのテスト結果をみて、購入の検討必要。会のガソリンボト
ルを持ち出したが、出発直前に漏れるのを発見。確認するとパッキンのゴムがなく
なっていた(要修理)。幸いながら1L1本省略せざるを得ず軽量化につながった。
▼岩稜帯:危ない個所では個人のペースでゆっくり慎重に処理をする。崩れそうな気
がする(わずかであっても)岩には全体重をかけない、思いっきり引かない。それし
かない。
▼懸垂の支点:雷鳥ルンゼへの下りで、もろい岩にスリングが残置されてあった。ク
ライムダウンを主体にするのなら大事故には至らないだろうが、壁の状態を見てどの
ような下降を想定するかによって支点の選択が必要。我々は、別のもっと強度のあり
そうな岩にスリングを架け直し懸垂した。
▼事前トレーニングについて:山行トレーニング失敗(4月中旬の白馬主稜)。 ウ
エイトトレーニング、特にひざを中心に。あとはランニング8~10km(週1~2
回)。
▼体調:2月に左膝内側副靭帯を傷めギブス装着2週間、4月に入ってからも膝周りの
みならず大腿部裏側の大きい筋肉(ハムストリング)が突っ張る現象が度々あった。
今回、ばねの強い歩行補助作用のあるサポーターを持参したものの装着せず踏破出来
たので登山に必要な筋力は充分に回復していると感じた。体力的には、山行中・山行
後の疲労感も少なく問題なし。

―記:宮尾―







この記事を書いた人

愛知県豊川市に拠点をおき、奥三河の山々をホームゲレンデに、四季のアルプスのピークハント、縦走、ロッククライミングから沢登りとオールラウンドな山登りをしています。
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