【厳冬期竜ヶ岳蛇谷遡行記録】記載→比嘉

【2023年1月29日】

【メンバー】

会員外の松尾(左)比嘉正岳(右)

【概要】

厳冬期の沢は一体どんな姿になるのだろう。

アイスクライミングとは違った形の冬の沢へ。

未知を既知にしていく過程としてはまだまだ序の口。

今日をきっかけに冬の沢の全貌に近づきたいと思う。

【コース】

登山道→魚止滝

→二股(左は燕滝、右は名称不明)の右を行く

と蛇谷なのでそちらを行く。

→勝手に命名、バエル滝(由来は後述)

→五階滝

→引き返して登山道から下山

【蛇谷の冬の姿をみて】

まず第一に「蛇谷って簡単じゃん。」とは言えなくなった。打ちのめされた。

これは単に難しかったとかそういう話ではない。

イメージと実際に登攀して学んで体験したこととの乖離の大きさである。

1番簡単だと思っていた壁にはボルトが設置されており、ナチュプロをとらずとも登れる。

足もたくさんおける。

全くもって、松尾も比嘉もこの壁は軽視していた。

滝の左岸に位置するこの壁は水が流れていないため、大して凍らないと予測し、無雪期と難しさはそこまで変わらないと予測していた。

しかし取り付いてびっくり。

こんなにも水が流れない壁が凍り雪がつくのかといった印象。

特に強いて言うならココが核心か?と思っていたところは、ホールドを氷が覆い、どこを頼りにすればいいかわからない姿に変貌していた。

このような予測の甘さ、山への無知。

これを痛感すると同時に、山はまだまだとんでもない面白さが待っている。

そう感じさせる内容だった。

当然、今回相当に冷たく寒かったが、これに懲りずまた行きたいと思う。

【魚止滝】

(凍った右岸を松尾が登る↑)

(猛烈にシャワーを浴びる↓)

左岸は水を浴びないが、上部で滝の落口までトラバースする必要があり、これがかなり悪そう。比嘉はここから突破。実際かなり悪かった。

右岸は水流の最もきつい部分。

しかしガバが多くクライミングは容易。ただし、岩が脆いのでホールドの崩落に注意。

松尾はこちらからシャワークライミング。上部では雪に隠れたホールドを探す必要があったり、たとえガバでも少しでも傾斜があり凍っていると掴めなかったり、非常にスリリング。

しかしホールドは豊富なので、使えるものを探して突破。

フリーで抜けたが、本来は冷たさを我慢してでもロープ使うのが正解だろう…。

【燕滝との出合いまで】

ゴーロは雪で平坦化し、歩きやすくもあるが、時々薄い部分で落とし穴となり踏み抜いて足を痛めることも。

見えないので厄介だ。

森の養分が岩にこびりついたのか?

無雪期の蛇谷よりも、滑るように感じた

【燕滝との出合い、右側の蛇谷方面の名称不明の滝】

大岩が積み重なった滝で細かく流れの筋が分散するため、ここは凍るのでは?と予測していたが、やはり凍っていた。いや想像以上に凍っていた。

アイスとシャワーのミックスクライミング。

蹴り込む、あるいはハンマーで殴ればアイスは砕けそうなので足場は作れるだろう。

沢靴のまま突破を試みる。

(松尾がリードでいく↑)

滝の上部の大岩の左側を水が流れており、こちら側は悪く夏でも突破したことがないので、やはり凍ったとしても左岸から突破だろう。夏と同じルートで攻略する。

使えるホールドがかなり減っていて難しかった。

しかし更に難しいのはフォローの比嘉をビレイするための支点探し。

雪に埋もれている良好なクラックを探す。

ショベルはないが、掘る掘る。掘るしかない。

「遅いぞ」と滝の下部で比嘉の声が聞こえ、後ろめたくなりながらも、安全な支点を見つけるのが第一。待たせてしまったが安心できる支点を2ヶ所見つけた。

比嘉はこの時かなり体を冷やす。

【バエル滝(勝手に命名)】

バエル滝とはご覧の写真の通りかなりインスタ映えしている。

だからバエル滝。

ちなみに無雪期はこんな感じ↓

無雪期の話をすると

バエル滝には3つの突破方法がある。

パターン1

右岸のルンゼから巻く方法。

パターン2

滝を中央突破。ガバは意外と多いが、核心は上部のヌメッたガバ。しかも崩落しやすい。

そして猛烈なシャワーを浴びる。

パターン3

左岸の流れのない壁を登る。ボルトが打ってあり開拓されている。簡単である。

今回は簡単なパターン3からいく。

ルンゼは凍りつき逆に危なそうで巻くのは難しそうだからだ。

さて、簡単だと言ったパターン3だが、今回1番難しかった。

松尾がまずはリード。

松尾は登れなかった。

3ピン目をかけた後、やや左にトラバースした後、トップアウトへの細い隙間に体を捩じ込み乗り上げていきたい。

そこがとんでもなく難しく、フォール。

無雪期に使用するホールドが凍りつき、全く使えないのだ。

松尾が登れないので、クライマー交代。

比嘉が行く。

ビレイしていた比嘉は、無雪期のノリでいけるように下部からは見えてしまい、ピッケルはザックにくくりつけたままリードでいく。

(リードする比嘉↑)

2ピン目以降、比嘉も松尾と同じところで苦戦するが、松尾が信用しなかった引っ張ると動く木の根を頼りに体を上げる。

アルパインっぽさを感じる。

4ピン目以降、ホールドも全くなく以前あったボルトも外されていてかなり怖い。

ステップが無いので、スリングをセットしてエイドであがる。

その後、凍ったチムニー状の地形に体をねじ込みなんとか登る。ここがかなり怖かった。

トップアウトし、以前あった贅沢な終了点を探す。積雪により、雪の下に隠れていた。

フォローで上がってくる松尾をビレイする。

やはりクライミングが苦手なのか、またフォールする。

下部からは、松尾の弱音がたくさん聞こえてくる。

比嘉は「ガンバっ」と叫んでなんとか登らせる。

写真は、フォローでまるで荷物のごとく核心を引き上げられる松尾。

かっこ悪い先輩もたまにはいいね。

松尾と比嘉は合流して語り合う。

これがあぁだとか、冬の沢はこんなにもあぁだとか語り合う。

バエル滝を登攀後、積雪量が増える

腕は相当よれていたが、やはりクライミングはすごい。こんなにも寒いのに、腕と手だけはすごく温かかった。立ち止まるとすぐに冷えるが。

五階滝を手前にして、時刻は13時。

山頂を目指せる時間ではないので、今日はこの辺で撤退する。

一般登山道に合流して下山開始。

帰り道、一般登山客にスターのような目で見られる、冬に沢登りをするバカ2人組。

少し気分が良い。

下山後の駐車場での着替えが核心だった。

今回のような山行は学びこそ多いが、怪我のリスクも相当に高いと感じた。

だが、決して後悔や自責の念はない。

これは僕たちが挑戦したからこそ学んだこと。そして運も含めて、今日までの経験が僕たちを下山に導いたのだから、そこは挑戦したことに自信を持ちたい。

この記事を書いた人

強いアルパインクライマーになりたい22歳。
比嘉正岳と申します。
正しく岳に登る。

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