称名川支流 ザクロ谷

【称名川支流 ザクロ谷】20.9.21(山形)
【2020年9月21日~22日】
【メンバー】L.山形、鈴木(豊橋山岳会)

ザクロ谷…三度目の正直で目標としていた沢の一つを完全遡行することが出来た。

ザクロとの最初の出会いは2018年8月13日である。当時からゴルジュ好き(通称;ゴルジャー)を明言していた私は沢の経験値も増え、取りあえず行ったれー!と勢いに任せて突っ込んだ。この時は核心のF2を突破したものの後続が続かずに敗退となった。まぁ仕方ないかーと敗退を受け入れたもののそれ以来、モヤッと感がずっと心の中にあり、「必ずリベンジしてやる」という想いをずっと抱いていた。いつしかザクロ谷は勢いに任せて挑戦していた沢から越えなくてはならない壁に変わった。

敗退の理由はいくつか考えられた。敗退の経験を経て、ザクロ攻略のための戦略は以下、3つだ。
1.核心を何回もトライしていては寒さで体が動かなくなる→防寒対策及び素早く突破出来る力量の獲得
2.荷揚げのために荷物を軽量化する必要がある→2人パーティーでザックを1つにする
3.一人だと寂しいので単独は想定外として同じ目線でザクロを完登したいという気持ちを抱くゴルジュ好きパートナーの存在

1.はゴルジュ沢に行きまくる+モンベル豊橋店で散財で解決できる。
2.もアルパイン、ヨセミテの経験で何とかなる。
3.が喫緊の課題であった。

パートナー論を語れば長くなるがやはり居住地が近いことや頻繁にザイルを結んでおり「阿吽の呼吸が出来る」ことが大事だと思う。
隣の豊橋山岳会の大知君とは最近よく一緒に山に行っていた。彼はワイド好き人間だが沢、アルパイン、雪山も既に何回も一緒に行っているしお互いをよく知っている。小さな子供がいる私にとって車を気兼ねなく出してくれるのもありがたかったりする。彼をゴルジュ好きに仕立てあげることにした。

いくつかゴルジュ系の沢をチョイスして一緒に行った。
無事に「ゴルジュ楽しー!」となってくれたので作戦成功である。難しいところも普通にガシガシとリード出来るので、パートナーとして何の不足もない。
・厚血川 龍王渕ゴルジュ
・付知川 東股谷 竜ヶ髯谷
・黒桂河内川 下部ゴルジュ帯

彼をゴルジャーとして目覚めさせた沢が「厚血川ゴルジュ」である。訓練沢としては日帰り、特に東三河在住の人間にとってはアプローチ簡単で行けるが充実した遡行になる。龍王権現の滝、たっくい淵含め、全て直登出来るのでかなり面白い。誰かをゴルジュ好きにしたければここに連れて来ると良いかもしれません笑。黒桂河内川もなかなか面白かったです。林道が崩落しているので同ルート下降が良いです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

今になって振り返ってみるともう少し岩の人工ルートとユマーリング、例えば御在所の山渓ルート等をやっておけば良かったかなと思っている。アブミを使った素早い登攀やユマーリング技術は本番でも必要とされた。
さて、前置きが長くなったが本題のザクロ谷である。
勝負事には流れが重要だと私は考えており、大知君のゴルジュ熱が冷めやらぬうちにお盆期間の2020年8月13日に特攻してみた。今年は特に梅雨が8月まで入っており、お盆期間も天候不順であった。
なんとなく分かってはいたのだが増水でどうにもならずに山形は二度目の敗退を喫する。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

何とか今シーズンでケリを着けたいと天気予報と睨めっこしながら三度目の正直で9/20に富山入りした。この時期はゲートが開くのが遅いため。9/20中にゲート内に入り、幕営した。
当初、秋雨前線の影響で不安材料があったが天候は良い方に転んでくれた。
9/21に入渓することとした。
ご存知の通り、まずは導水管の階段を登る。導水管の登り初めは6:30頃だった。ウェットを着ていると9月下旬でも暑い。その後、トンネルへ。こうもりに遭遇するが3度目なので慣れたものだ。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

雑穀谷を確認すると水量は少なそうで何とかなりそうである。しかし、水は手がキンキンになるほど冷たくこんなんでほんまに大丈夫かいなと不安にある。ザクロ谷との出合には9:30前に到着した。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

F1を容易に越え、まずはF2だ。山形は既に突破しているので大知君に託す。無事に一発で越えてくれた。F2は1,2,3段と分けることが可能であり、2段目でザックを引き揚げることとした。荷揚げのために細かくピッチを切る方が絶対良いと思う。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

F2の3段目、F3は山形がリードする。F3は左岸のクラック沿いに人工で越える。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

訓練の成果かF3までスムーズに越えることが出来てこれはいけるんじゃないかとかなり期待が膨らむ。ここからは山形も未知のゾーンである。続いてF4は大知君が登る。こちらも一発で決めてくれた。9月下旬ともなるとビレイヤーはかなり寒い。リードも寒かったろうと思う。
どうやら右壁のガバポケットがかなり有効に使えるようで、彼はそこにフィフィを掛けて左壁にハーケンを打って越えた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

F4以降もそれまでの強烈さはないのだが一癖も二癖もある滝が続く。とにかくフリーでは簡単に登らせてはくれない。ショルダーやカムアブミ等、必ずワンポイントが入ってくる。F5は右岸からワイドムーブ気味で越える。一部、ヤベーと思う滝もあったがよくよく探すとクラックが使えたり何とかなる。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

ザクロ谷は緑の回廊が噂に違わず本当にキレイで素晴らしい。この景色を見たかったのです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

牛の首直下の幕営適地には16:00頃に到着した。時間があったのでてまり滝直下まで行き、巻き道を確認した。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

軽量化のためにタープで頑張った。いつもならこの時期でもシュラフカバーだけで耐えるのだがさすがにザクロは厳しいと思いエアマット+モンベル#3のシュラフを持ってきた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

翌日は6:30に幕営地を出発した。ちょっとダラダラし過ぎてしまった。まずはてまり滝の高巻き。最初に高巻きで体を温められるのはありがたい。結構上部まで上がって早乙女沢との出合に懸垂なしで降り立った。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

うーむ、相変わらず美しいですなぁ。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

程なくして口無しの滝である。ヒールフックで越える。前衛滝も簡単である。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

続いては悪名高いF25の高巻きは山形がリードする。
最初のリングボルトはチョンボ棒でクリップする。このボルトを打った先人は本当にすごい。
残置はところどころにあるので使える。一番嫌な乗越部も草で隠れてしまっているが探せば見つかるはずです。最初、残置リングを全く見つけることが出来ず、リスをハンマーピックでほじくり返したり悪戦苦闘していた。しかも決まりそうなのは決まりの悪い小さいナッツだけ…。「マジかよー、これで乗っ越すのかよー」とブツブツ言いながら草をかき分けると左手にリングが見えて一安心の瞬間であった。懸垂なしでソーメン滝直下まで行ける。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

F26のソーメン滝は右岸から残置を使って容易に越える。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

二日目も癖のある滝が続くうえに標高を上げているからなのか寒い。
泳ぎが入ると心臓がキュウっとなる。

F31が個人的には寒すぎました。
直登するにはワイドムーブが必要で何回か弾き返される。ワイド好き大知は一発で抜ける。そのせいで寒くなり体にも力が入らなくなり悪循環に陥る。どうやらここは左岸をトラバースが正解だったようだ。
それから初めて経験したのだが寒くなり過ぎると貧血や立ちくらみのように頭がクラクラするという現象である。これが低体温症一歩手前なのか???

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

問題のF34に到着する。事前の情報収集では最後のリングボルトが今シーズン抜けてしまったようでフリーで頑張るorジャンピングでリングを打ち足すかのどちらかしかない。
もちろんジャンピングは持参していたがいちいち打ち足していては時間がかかる。ていうか壁がモロくて決められる場所はかなり限定される。
早く水中から出たくて山形がリードする。クラックにエイリアン緑→青の順に決めながらアブミを使って水中から抜け出す。後は残置ハーケンとリングを使う。てかこいつらが無ければかなり厳しい登攀になるはずだ。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

最後のリングに到着するが先を見ると確かにヌメヌメフリートラバースはかなり怖そうだ。よし!やっぱり打ち足そう!と思いジャンピングで工事に取り掛かるがやっぱりボロボロなので途中で諦めた。アブミの最上段に乗ってから意を決してフリーに切り替え、何とか無事に滝上に立つことが出来た。自分の息遣いが鮮明に聞こえてくるほど集中した登攀が出来た。
フォローはザック有のユマーリングで良い場面なのだがここで練習不足が露見し、時間がかなりかかってしまった。おまけにリングの輪っかが一つぶち切れるという事態になり終了点を上に移動させたりかなり手こずった。初めてリングの輪っかがぶち切れる場面に遭遇しました。しかもよりによってザクロでとは…。言葉ではうまく説明出来ないが何とかやりくりしてフォローも越えることが出来た。
大知君は少ない経験ながらカラビナを残置してそれを使って懸垂してロープの真下に自分を移動させてからまた上がり始めるというビッグウォールさながらの機転を利かせた登り方を見せてくれた。
F34はリングの打ち足しが必要と思われます。あるいは根本がどれだけ残っているのか私は確認出来ていないがスリングを使えば打ち足しなく行けるかもしれません。
最後が悶絶トラバースであることは間違いないですが。
私のアブミがぶち切れたリングの輪っかと共に流されてしまいました…。ヒロ君から譲り受け、めちゃくちゃ気に入っていた今は亡きダックスのアブミだったんだけどなー、しょぼん。

これを越えた時点でヘッデンが確定してしまった。
先を急ぎまくったため写真が全然ない。
それぐらい速く歩けるなら最初からそうしとけよというレベルの速さで2人ともガシガシと登る。
F37は3段になっておりボロボロだがフリーソロで越える。
源頭の雰囲気が出てくる。二俣が二回続いた後についに最後のF40まで来た!!
ハンマー投げをしている時間はなかったので右岸巻きを選択した。その際中で日が落ちてしまったので右岸巻きをした後のトラバース道の探索にこれまた時間をかけた。通常は懸垂が不要なのかもしれないが安全のためスリングを残置してF40上へ懸垂で降りる。暗くてよく分からないのでロープはそのままにして先を進んでみた。ヘッデンで照らすとこれ登れるの?みたいな錯覚になるが取り付いてみるとどうってことは無さそう。ロープを引き抜いて歩みを進める。
水量もようやく少なくなり、いよいよ詰めあがる雰囲気がプンプンしている。

そしてついに登山道と合流した!!!やったぞー!
危険地帯を抜けた喜び、完全遡行出来た喜びを全身が包んだ瞬間であった。
固い固い握手を交わした。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

かなり疲れていたがビバークは嫌だったので早速、「あそこはこうだった、ここはああだったよね」とザクロの思い出を2人で語り合いながらトボトボと駐車地まで歩いた。
リベンジを達成でき、新たな経験値も獲得出来た実り多き素晴らしい山行となった。
パートナーにもこの場を借りて改めて感謝致します。

私はと言えばしばらくは余韻にひたるつもりでいるがこれでさらにゴルジュ系の沢が好きになってしまったので次の目標はどこにしようかな~とのん気な事も考えたりしています。

この記事を書いた人

こいつノリで生きてるだろと思われがちな関西人ですが山に対しては真剣です。厳しいルートを登った後に絶景を見ながらテント泊にて赤ワインを嗜む、そんな登山が大好きです。

目次